建設業許可に必要な「専任技術者(専技)」は、国家資格を持つ方法のほか、実務経験10年以上でも認められます。しかしこの「実務経験10年」の証明は、審査で最も不備が多く、差し戻しが頻発する項目です。
本記事では、実務経験10年を証明するための書類の種類、集め方、審査でチェックされるポイント、自治体が認めないケースなど、実務的な視点から徹底解説します。
実務経験10年とは?──誤解されやすいポイント
実務経験10年とは、建設工事の技術的業務に通算10年以上従事した経験のことです。
ただし、次のような誤解が多く見られます。
- 単なる作業員経験ではカウントされない
- 建設業以外の職種は経験に含められない
- 証明資料が揃わないと経験として認められない
- 工種(業種)が一致していなければ無効
専技として認められる「実務」の範囲
建設業法が対象としている「実務」とは、次のような業務です。
- 施工管理・現場管理
- 積算・工程管理
- 工事の技術上の指導
- 職長としての現場責任業務
単純な作業・手元作業などは「実務経験」と認められません。
実務経験10年の証明に使える資料一覧(これを揃えればOK)
証明資料は「経験が10年間継続していたこと」を示す必要があります。
① 請負契約書・注文書
- 工事名
- 工期
- 金額
- 発注者名
期間が明確で最も信頼度が高い資料です。
② 請求書・領収書
契約書が不足する場合に補完資料として使用。
③ 工事写真(施工前・施工後)
工事に関わった証拠として提出可能。
④ 確定申告書(個人事業主の場合)
建設業として継続していたことがはっきり示せます。
⑤ 社会保険加入記録(雇われていた場合)
勤続年数を示すために使用。
⑥ 取引先証明書
資料不足を補うための強力な裏付け資料。
実務経験10年の“集め方”と整理方法
ステップ1:経験の棚卸しを行う
次の項目を年ごとにまとめます。
- どの工事に携わったか?
- いつからいつまで働いたか?
- どの業種(工種)に該当するか?
- 役割(現場管理・施工など)
ステップ2:資料を年度ごとに揃える
自治体が最も重視するのは「期間が連続しているかどうか」です。
1年あたり最低でも1〜2件の工事資料を揃えるのが理想的です。
ステップ3:資料が不足している部分を補強する
不足時の補強方法:
- 工事写真を提出する
- 取引先に証明書を書いてもらう
- 当時の関係者から作業記録をもらう
- 過去のメール・FAXの履歴を提出する
自治体によっては柔軟に判断してくれる場合があります。
実務経験10年が“認められない”ケース
- 建設業と無関係の業務だった場合
- 証拠資料がほとんど残っていない
- 経験した業務が専技の業種と一致していない
- 勤続年数・工期に矛盾がある
- 他社の資料で本人の関与がわからない
特に「業種の不一致」は審査で否認されやすいポイントです。
実務経験と専技業種が一致している必要がある
例えば、以下のようなケースは不可となります。
- 電気工事の経験 → 管工事の専技は不可
- 左官工事の経験 → 建築工事の専技は不可
経験内容が業種と一致していなければ専技として認められません。
実務経験10年の審査で差し戻される典型例
- 契約書に工期が書かれていない
- 請求書だけでは従事した期間が証明できない
- 資料間に矛盾がある(住所・工期など)
- 資料の日付が飛び飛びで10年までは届かない
- 工事内容が曖昧で何の業種か判断できない
「10年」という年数が連続して証明されていることが最重要です。
資格がない人でも専技になれる強い方法とは?
実務経験10年は難易度が高いですが、次の方法も検討できます。
- 資格取得を目指す(2級施工管理技士など)
- 特例(学歴+経験)で2級受験資格を得る
- 社内の別メンバーを専技にする
施工管理技士の取得は専技の最短ルートです。
まとめ:実務経験10年は書類の“つながり”が命
実務経験10年による専任技術者は、資格なしでも許可取得が可能な強力な方法ですが、書類準備に時間がかかり、審査も厳しいのが特徴です。
ポイントは、次の3つです。
- ① 経験内容が業種と一致していること
- ② 年数が連続して証明されていること
- ③ 資料の整合性が取れていること
この記事を参考に、実務経験10年の証拠資料をしっかり揃えれば、許可取得の大きな壁をクリアできます。

